核分裂 : 『原子力技術者のための核分裂理論』 (2022年6月)
今後しばらくの間は原子力発電が重要な役割を果たして行くものと思われます。勿論、ウランも化石燃料もいずれは枯渇して行く事は確かな事ですが、しかしその時期を予測する事は不可能であろうと思います。さらに言えば、その時まで地球上における人類の文明が持続するかどうかと言う事も同様に難しい問題だと思っています。
ここでは原子力発電における技術的な問題点を議論するものではなく、その基礎となっている原子核分裂における理論的な模型について解説して行こうと思います。
原子力関連で働いておられる技術者は工学的な知識に関しては十分なものを持っておられるものと思われます。しかしながら、原子力発電の基礎である原子核の核分裂の理論に関しては、それ程、簡単に理解できると言うものではありません。それでここでは出来る限り平明に、この核分裂の理論について解説して行きたいと思っています。
一般的に言って、物理学の理論を解説する場合、専門家に説明するための小ノートの方が常に書き易く、簡単である事は確かです。しかし今回の場合、少し事情が入り組んでいるように思われます。核分裂の現象自体は良く理解されておられるものと考えています。しかし『その現象が何故起こるか?』と言う問題は別の難しさがあります。例えば、重力ポテンシャルの場合、惑星は楕円軌道の平面運動をしています。そしてこの現象自体を理解したり、それを覚えたりする事はそれ程、難しい事ではありません。しかしながら『それが何故、楕円軌道の平面運動をするのか?』と言う事を理論的に理解する事はまた別の次元の問題となっていて、それ程、易しい事とは言えません。この場合、古典力学の微分方程式をきちんと解いて、その解の性質を理解する必要があります。
ここでは『何故、ほとんどゼロエネルギーの中性子が核分裂を引き起こしやすいのか?』と言う問題を一つの理論模型によって解説しています。それ程、簡単な理論とは言えないものですが、出来る限り易しい解説を行っています。是非、核分裂に対して自分独自の描像を作って欲しいものと思います。そうすれば、核分裂の現象に対して、ある程度の親しみを持つ事が出来るものと確信している次第です。
[付記:] ところで、核分裂とは直接の関係はありませんが、中性子の崩壊と原子核内での安定性について第2章の終りに簡単な解説を入れてあります。自由中性子は15分程で崩壊するのに対して、原子核内の中性子は安定です。原子核内では中性子が何故、安定なのかと言う問題は物理屋に取っては明らかな事です。しかしながら、これはなり重要な事でもあり、何かの参考になればと思って書き足しています。
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