量子論の世界 : 『 光と色と命と宇宙』 (2022年3月)
日常の世界で見られている自然現象の大半は、電子と電磁場との相互作用によって理解する事が出来ています。特に、物質の構成要素である原子などはクーロン力によって作られていますが、この場合、その源である電子間のポテンシャルは電子と電磁場(クーロン場)の2次の摂動に依って求められています。但し、原子の中心にある原子核は電磁的な相互作用とは無関係の強い相互作用に依って作られていますが、しかしここでは原子核ありきとして議論を進めて行こうと思います。これに加えて、電磁場(ベクトルポテンシャル)を量子化して得られる光(フォトン)はこの日常世界では本質的に重要な役割を果たしています。特に、進化した葉緑体は太陽光のエネルギーを直接、取り込むことが出来ており、これは生命体を維持して行くための最も基本的な要素の一つになっていると考えられています。
この本ではまず最初に色の物理学を解説して行きます。これは意外に思われるかも知れませんが、この『色の物理』に関しては、この物理がまだ理論的には正確に理解されているとはとても言えない状況となっています。その主な原因としては、光が物質に吸収されると言う物理過程をきちんと理解する事がかなり難しいからであると考えられます。実際、光と物質中の電子との散乱は理論的な取扱いが非常に難しくて、反射、吸収、透過、共鳴散乱(原子の励起と脱励起)など様々な物理過程が混在しています。光が電子と散乱する場合、自由電子との散乱は1次摂動では起こらなく2次摂動から始まりますが、これが Compton 散乱です。その上、光と原子中の電子との散乱においては、共鳴散乱やRayleigh 散乱など、その散乱断面積はより一層、複雑になっています。さらに言えば、理論物理の専門家のなかでも、散乱理論を正確に理解出来ている人はほんの一握りであると言う事が現実としてあります。
この場合、最も重要な点はこの散乱過程で光の波長に強く依存しているのは共鳴散乱だけであると言う事実です。従って、基本的には物質の色は『脱励起光』に支配されている事が分かります。その意味では、この色の物理はかなり新鮮な題材となっているように感じていますので、しっかり理解して頂きたいと思っています。ちなみに散乱理論の講義ができる物理屋は世界的にも極めて稀な存在となっていますが、その中で松田命氏の解説動画 (散乱理論) が非常に優れています。
また地球温暖化の問題は電磁波の輻射(放射冷却)と密接に関係しているため、簡単な解説を入れています。この場合、CO2が地球温暖化とは無関係であると言う証明は簡単でしたが、地球温暖化そのものは非常に難しい問題であると思っています。実際、観測事実として1900年頃から100年以上に渡り、確実に地表の気温はほぼ線形に上昇していると言うデータが知られています。これと関係して、ここではこの地球温暖化が氷河期から間氷期そして温暖化への過程なのかどうかに関しても考察を行っています。しかしこの問題は光の物理を超えているだけでなく、太陽の脈動運動など、ほとんど実験的な検証が出来ないと言う難しさもあり、科学的な進展があまり期待できない分野と言えそうです。
この本の後半では、無限遠方における地球型惑星について議論し、そこにおける宇宙生命体の進化について簡単な考察を行っています。しかしこれを読まれた一部の読者からは『これはSFではないか?』と問い詰められるかも知れませんね。確かに科学的な実証が出来ないと言う点ではこれは科学ではありませんが、しかし同時にSFでもありません。これはフィクションではないからです。実証はできませんが、科学的に合理性のある推論は十分可能であり、様々な角度からの理論的な検証は勿論、行っています。その意味で、これは『科学的推論』と言うべき分野と考えて貰えば良いと思っています。実際、宇宙論は実証的な検証が不可能です。その意味では宇宙論自体が『科学的推論』その物であるとも言えます。但し、量子生物がまだそれ程、進展していない現状では生命体に関する科学的推論も充分に信頼できるとはとても言えない段階となっています。これはもう少し量子生物の発展を待つしかないと思われます。
そして最後の章では宇宙論について簡単な解説を行っています。但し、これはすでに『宇宙の夜明け』の本で解説したものを簡単にまとめ直したものですので、詳細はむしろ『宇宙の夜明け』を参照して頂ければと思っています。
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