ミューオンの g-2 : 場の理論計算法 (2024年8月)
これまでレプトン(電子とミューオン)の g-2 計算に関して、教科書 [Fundamental Problems in Quantum Field Theory] で解説しているので、ここで改めて解説する必要はないと考えてきたし、実際、その通りであろうと思ってはいる。しかしながら、やはりミューオンの g-2、特に Z0-boson による Vertex Corrections をわかり易く解説することは、現在、特に重要であろうと思い始めている。それはこの計算が現代物理学の基礎になっているからである。
Z0-boson によるレプトン g-2 への Vertex Corrections は確かに量子電磁力学(QED)を少し超えた範囲の計算となっている。しかしながらこの場合、弱い相互作用を考慮する事だけが QED の範囲外であると言う事であり、基本的には量子場の理論の計算である。このため、現代物理学の基礎として見た場合、これが最も重要な計算となっている事は間違いないことである。さらに、この計算には Log 発散がないため、これまで場の理論の手法として最も重要な理論スキームとして受け入れられてきた『繰り込み理論』の手法そのものが、Z0-boson による Vertex Corrections に対して実は必要とはなっていないのである。
場の理論計算は g-2 計算を含めてほとんどの場合、誰にとってもかなり(非常に)大変である。しかしながら、それでも地味に一つ一つ計算して行くしか他に方法はない。一般的に言って、物理の計算ではほとんど正しくても、何処かでほんのちょっとでも間違いを含んでいるとその計算は最初からやり直しとなっている。そして、正しい計算結果を得るためには途方もないほど、時間が掛かる事が普通である。しかしながら、結果を含めて自分で計算してそれがうまく実行できれば、必ずそして確実に前に進めるものである。
この解説が院生や若手研究者(実は古手研究者も含む)に取って、理論物理の技術向上に少しでもプラスになるようにと願っている。この場合でも、やはり自分で計算して検証することしか、なかなか成長する事は出来ないものである。しかしだからこそ、物理は楽しいとも言えるものであろう。
第4章に教科書の付録を載せてある。これは、場の理論計算の時に必ず必要になる公式集である。
[付記] :
この解説ノートを書いた後、電子の磁気能率そのものをきちんと解説する必要があるかも知れないと思い始めて、これを第1章に書き入れている。これは大学院の講義ノートを書き直したものである。従って、あるいは修士の院生諸君には多少、プラスになるかも知れないと思っている。この磁気能率に対して、相互作用ハミルトニアン H'=-e∫ j A d 3 r の3次の摂動計算が Vertex Corrections である。
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