Rayleigh 散乱 :『 空が何故、青いか?』 (2022年3月)
ここではRayleigh 散乱の新しい知見について解説しようと思います。このRayleigh 散乱断面積は『空が何故、青いか?』と言う問題を説明する時に重要になる現象論的な理論模型です。そしてこの散乱公式は19世紀にRayleigh により、古典電磁気学を駆使して計算されたものです。この現象論的な散乱断面積 σ は光の波長 λ に対してσ〜[(λ0)^4/λ^4] と言う依存性を持っており、波長の短い青い光はより多く散乱されて空が青く見えるというものでした。しかしこの場合、その断面積の大きさは具体的にはどのくらいなのかと言う問題に関して、その断面積の大きさの評価はきちんとは行われていませんでした。
それで、量子論的な散乱問題としてはちょっと面倒な計算ですが、ここではこれを実行してみました。定数である λ0 の値がどの程度なのか、以前から気にはなっていたからです。Rayleigh 散乱は原子の励起状態を考える必要があるため、古典論ではこの計算は始めから無理でした。実際、このRayleigh の計算は19世紀のものであり、これは量子力学が発見される以前の事です。ところが量子論的な計算がかなり難しいため、これまで量子論的に正確な計算はほとんど行われてきませんでした。
但し Sakurai の『Advanced Quantum Mechanics』にはその基本的な式は解説されていますが、A^2 項を計算に入れているため正確さを欠いた模型計算となっています。さらに、その計算過程における近似が荒すぎるため、Rayleigh 散乱と言えるかどうかは今後の検証が必要となっています。A^2 項の問題点に関して、これは古い問題ですが、その解説を付録に入れてありますので参考にして下さい。
また、散乱理論全般の解説は松田命氏の解説動画 (散乱理論) が非常に優れていますので、参考にして頂ければと思います。
ここで、我々の具体的な計算の結果を述べておきます。青色などの可視光に対して、Rayleigh 散乱断面積の大きさは Compton 散乱の大きさと比べて10桁以上、小さいことが分かりました。断面積の関数形は確かに正しいのですが、大きさがこれだけ小さいと、これでは自然界に応用する事はできません。何故、このように小さくなっているのかと言う問題には次元解析をすることで、実は簡単に答える事が出来ています。
これは自分に取っても大変な事になってしまいました。それはこれまで長い間、学生諸君に『 空が何故、青いか?』に関して、Rayleigh 散乱による説明を繰り返し行ってきたからです。本当に、これは物理の難しさですね。実際、Compton 散乱も含めて、非相対論での計算が正しい結果を与えるとは限らない事が知られている領域でもあり、これは確かに難しい問題であると言えます。今後『 空が何故、青いか?』の問題を解決する必要がありますが、これは若手研究者への宿題ですね。
Rayleigh 散乱とは直接の関係はありませんが、光と原子との共鳴散乱の微分断面積についても現象論的な計算法を解説しました。これはきちんと計算しようとすると、どうにもならないくらい難しい模型計算ですが、出来る限り、その現象を再現できるような定式化を解説しています。何かの参考になればと思っています。
( fffujita@gmail.com )