ミューオン g-2 : Z0 ボソンのバーテックス補正 (2021.5)
最近、Fermilab によりミューオン g-2 の精密測定が発表されました。そして彼らはこのミューオン g-2 を電子の g-2 と比較しました。その結果、10億分の1のオーダーで2個のレプトン g-2 の間にズレが見つかっています。精度が格段に上がった測定であるため、微小量ではありますが、有限な値として実験的に実証されています。電子の g-2 に関しては、フォトンによるバーテックス補正として場の理論における3次の摂動論で計算されています。そしてバーテックス補正における繰り込み理論により、レプトン g-2 の実験値は高精度で再現されました。そしてこれはファインマンや朝永による計算であり、歴史的にも有名なものとなっています。但し、この場合、フォトンによるバーテックス補正に対する彼らの計算には無限大は残っており、繰り込み理論自体を本当に信用して良いのかどうかは理論的な検証が必要でもあります。この事に興味のある読者は『宇宙の夜明け』の『繰り込み理論』の解説を参照して頂ければと思います。
いずれにしても、この精密測定は物理学上、非常に重要な実験であると考えられています。それは通常のQEDによる計算では2個のレプトン g-2 は全く同じである事が知られているからです。これは直感的には明らかで、この g-2 が無次元量である事に依っています。すなわち、フォトンのバーテックス補正においてはレプトン質量のみが次元を持っている物理量であるため、その質量 m が無次元量の g-2 に現われる事はないからです。このため、この2個のレプトン g-2 の差は単純なQEDよりも何か別の新しい物理が存在する可能性を示唆しています。
それではこのレプトン g-2 の差はどのような物理学で理解されるのでしょうか?実は10年近く前に、教科書 [ Fundamental Problems in Quantum Field Theory ( Bentham Publishers, 2013) ] において、その第5章でZ0 ボソンによるレプトン g-2 に対するバーテックス補正の計算を解説しています。その時、この Weak Vector Boson であるZ0 ボソンのバーテックス補正はQEDとは異なり、有限値で求められることが示されています。つまりQEDのバーテックス補正は発散しているのに、Z0 ボソンの場合は発散がありませんでした。これは当時、スーパー大学院生の神田氏との共同研究による結果でしたが、Z0 ボソンのバーテックス補正に発散がない事にひどく驚いた事を覚えています。そしてミューオン g-2 の場合はその有限値が丁度、10億分の1のオーダーでした。その当時、これは小さすぎるから到底、実験的な検証は無理であろうと思っていました。しかし、それが上記のようなFermilab によるミューオン g-2 の精密測定結果と関係しているとしたら、これは非常に面白い事だし、また楽しい事ですね。今後、詳細な検証が実験・理論ともに必要であることは確かですが、あれだけ微小な量でも最近の測定技術で精密測定が可能となったと言う事でしょうか。それにしてもミューオンの寿命がミクロ秒のオーダーなのに、良く測定できるものですね。
高エネルギー研究所でもミューオン g-2 の精密測定が計画されています。是非、しっかりした実験を行ってほしいものですね。このような実験は必ず、複数の研究施設によって行われるべきで、それはきちんと科学として認められるための最低条件です。実際、近年はこの再検証を行わない実験(家)が続出しています。例えば、ヒッグス粒子の場合では1事象を『発見』しただけで、その後の再確認はされていません。自然科学では必ず、きちんとした再検証が必須であり、これを行う前にその実験を過大評価してしまうと『ヒッグス粒子』や『重力波』の二の舞になる可能性が常にあると言えます。ところで、現在、CERNによる『ヒッグス粒子発見』からすでに10年近く経っています。しかしながら、ヒッグス粒子関連ではCERNの加速器を upgrade したと言う話以外、これに関するニュースはほとんど耳にしませんが、その後、CERNはどうなっているのでしょうか?
ここで、教科書 [ Fundamental Problems in Quantum Field Theory ( Bentham Publishers, 2013) ] の第5章を抜粋したファイルを期間を限ってここにアップロードしておきます。バーテックス補正の計算は決して易しいものではありませんが、院生諸君や若手研究者は是非、自分で計算を実行して頂きたいと願っています。
Bentham の教科書の一部抜粋 : 『5. Weak Interactions』(May 2021) PDF
( fffujita@gmail.com )