教科書の改定版(第9章の加筆)
教科書「Symmetry and its breaking in quantum field theory」の第2版が
出版されます。いくつか改訂が必要になったために、第2版の準備をしてきました。
そのうちの一つに新しく第9章を加えるという事です。その第9章では
重力を考慮した場の理論(Lagrangian 密度)が作られています。
そこでは極めて自然な形で、光が重力と相互作用する事がわかります。
一般相対論によらない新しい重力理論を取り扱った第9章を
PDFファイルでアップしておきます。
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Einsteinの理論を考え直す必要があると言っただけで疑問を感じる学生が
あるいはいるかも知れません。しかしながら、歴史的に言っても
一般相対論は無理な状態で作られた無謀な理論である事が
簡単にわかるものと思います。一般相対論が作られた時期はまだ
量子力学(場の理論)が発見される前であったという事です。
従って、一般相対論は基本的に粒子の座標に対する運動方程式を
扱っており、しかしその場合、等価原理という非物理的な原理を
導入しそれに従って理論を構築したため、一般相対論は計量テンソルに
対する方程式となっています。現代物理学は基本的には場の理論により
理解することが出来ています。その基礎はMaxwell方程式です。
Einsteinは特殊相対論を構築した時はMaxwell方程式を基礎とした
Lorentzによる変換法則を取り入れています。しかし結局、彼は
量子力学を理解しようとしなかったと歴史的に言われているのは、この
一般相対論にこだわりすぎたからだと考えられます。
物理学は常に実験的な観測から出発し、それを理解するために数学を
利用しています。ちょっと油断すると理論が先にあってそれを実験的に
検証する事の方がより高いレベルの理論と勘違いしそうですが、そんなことは
あり得なく、現象をより深く考え、理解する事が最も重要な事です。
この最も大切な科学の基本姿勢をEinsteinが最初に破り、そして現代物理では
超弦理論が物理の基本的な方向を完全に失い、物理的観測量から
かけ離れた理論になっています。
事の良し悪しは別にして、現実問題として、
場の理論に関する基本的でしかし不可解な問題が山積しており、
それら基本的な問題を今後何らかの形で解決してゆく必要に迫られています。
今現在、明らかに言えることは、「量子電磁力学」における
繰り込み理論は信頼できる理論体系であるという事です。しかし、量子色力学は
強い相互作用を記述する理論としては恐らく正しい模型であると思われますが、
その具体的な取り扱いはどうして良いか全くわからないほど難しいものです。
わずかに電磁気的なプローブにより、量子色力学が理論の模型として整合性が
ある事がわかっていますが、量子色力学自体の理論的な計算は「MIT バッグ模型」
という「toy model」以上にまともな計算は残念ながら出来ていません。
ソクラテスは「ソクラテスの弁明」のなかで「智者は知らないのに知っているように
思い込んでいるが、私は知らないからその通りに知らないと思っている」
と言う事を言っています。場の理論の分野においては「理解していないのに
理解したと思い込んでいる」事例が予想以上に多く見られています。
学生諸君が、この場の理論の教科書をしっかり理解する事により、
物理的な観測量と常に結びつく理論的な見方を修得し、そして新しい理論体系の
構築に寄与して行く事を期待している次第です。