教科書第2版
教科書「Symmetry and its breaking in quantum field theory」の第2版が出版されるにあたり、その内のいくつかの箇所を抜き出しpdfファイルでアップしておきます。研究者にとっての新しい研究のために、そして若い院生諸君にとって場の理論のより深い理解のために活用していただきたいと思います ( Amazon) 。この教科書では場の理論における摂動論および繰り込み理論を詳述する事はしていません。それは摂動論に関しては Bjorken-Drell の教科書が、基本的には良く書かれており繰り込み理論を学ぶ上でもその基礎的な記述に関しては十分良い教科書であるからです。
しかしながら Vacuum Polarization に関するところは大幅な修正が必要になりました。これまで繰り返し書いてきた事ですが、4次元場の理論で最も信用できる理論体系はQED の繰り込み理論です。観測量の記述を常に最優先して理論を作っている点においても物理学の基本的な方向性をよく理解した理論体系になっています。その中で唯一不思議であった事が Vacuum Polarization すなわちフォトンの自己エネルギーの取り扱いです。S 行列の計算を実行する限り必ずフォトンの自己エネルギーには2次発散が出て来てしまいます。これが非物理的である事は明らかですが、何か理由をつけて消去しない限りこれが繰り込み理論の欠点であると人々は思い込み、それを捨てる理由をゲージ不変性に持って行きました。ゲージ自由度とゲージ固定に関しては単に未知変数と方程式の数が合わなかったという事から来ている単純に数学的な現象です。ゲージ場の方が一つだけ自由度が多いためゲージ固定という条件をつけて自由度と方程式の数を合わせる必要があります。この場合、ゲージ場自体は直接は観測量にならないため、適当なゲージ固定をする限り観測量は不変です。ゲージ場の量子化はその後行います。従って、フォトンの自己エネルギーを計算するのはゲージを固定した後であり、計算された結果が観測量に関係する場合、それはゲージの選び方によるべきではありません。すなわちフォトンの自己エネルギーの
ゲージ不変性を議論する事自体もともと意味がなかったわけです。たとえば電子の自己エネルギーもバーテックス補正もゲージの取り方にはよりません。このような点だけから言っても、フォトンの自己エネルギーは繰り込みに入れてはいけないものである事がわかります。
もう一点、繰り込み理論で重要な事があります。例えば、フェルミオンの自己エネルギーを計算すると無限大が出てきます。この時、繰り込み理論においては無限大を打ち消し合うカウンター項を入れて計算上出てきた無限大を処理します。この場合、摂動論は常に自由 Fock 空間をベースにして計算しているため、この空間内で処理する限り、カウンター項は常に無限大を打ち消し合う事が出来ます。所が、フェルミオンの場合、その状態は何時でも自由 Fock 空間内に収まるとは限りません。水素原子での束縛状態がその例です。この場合、カウンター項はフェルミオンの自己エネルギーの無限大を打ち消し合う事が完全には出来なく有限項が残ります。これが Lamb シフトのエネルギーとなって観測されています。
所がフォトンの自己エネルギーはフェルミオンの場合とは全く異なります。フォトンには束縛状態が存在しなく、常に自由 Fock 空間内にある状態がすべてです。従って、フォトンの自己エネルギーの無限大はカウンター項が常に打ち消し合いフォトンの自己エネルギーが観測量に影響する事はありません。従って、フォトンの自己エネルギーを繰り込み理論の中に入れる必要はもともと無かったわけです。
フォトンの自己エネルギーは繰り込み理論の中に入れる必要はないという事実は様々な場の理論の模型に大きな影響をもたらします。QED の繰り込みの中でもその影響を見る事が出来ます。それはバーテックス補正における結合定数の繰り込みです。計算すると直ちにわかる事は電荷は繰り込みを受けないという事です。これは繰り込み理論を非常に明解にわかりやすい形にします。QEDの摂動計算であらわれる無限大は常に log 発散であり、これは基本的には波動関数に繰り込む事が出来るという事です。この事より繰り込み群方程式はそもそも存在しなかった事であり、より明解になっています。
Anomaly
さらに重要な事は、場の理論の模型で結合定数が無次元である場合は、ゲージ理論と無関係に繰り込み可能な理論になっているという事です。例えば湯川模型は核子と中間子の相互作用を記述する模型ですが、この場合結合定数は無次元であり繰り込み可能な理論となっています。核子とπ中間子はともに複合系ではありますが、その点を除いては場の理論的には非常にしっかりした理論であるという事が出来ます。QCDの取り扱いが殆ど不可能である事が明らかになってきた現在、やはり中間子論によりハドロン物理をしっかり見て行く以外に方法はないわけです。従って、中間子理論による強い相互作用の計算において繰り込み理論が取り扱い可能となった事により、今後新しい発展が期待できるものと思っています。
これまで長い間、ゲージ理論のみが繰り込み可能であると言う「物理学の魔物」に人々の発想は強い制限を受けてきました。特に、Weinberg- Salam の標準理論はその影響が顕著です。ゲージ理論なら繰り込み可能であるからと言う理由で、 SU(2)×U(1) の非可換ゲージ理論から出発して結局は有限質量のボソン模型に帰着されるわけです。しかし、物理の観測量に関係する所は勿論最後に得られたHamiltonianであるわけで、もしゲージ理論にこだわるのならばそのゲージ不変が実は問題であり、繰り込み以前の問題であったわけです。しかしながら結果的には、ゲージ理論でなくても繰り込み可能である事からWeinberg- Salam 模型の最終段階のHamiltonianは、Higgs 場を除去するなどいくつかの修正をすれば物理的に十分意味がある標準理論になっています。
Higgs Mechanism
以下に、目次と第1章、第9章それに付録とインデックスをPDFファイルでアップしておきますので、是非、しっかり読んで学んでそしてじっくり物理を考えていただきたいと思います。