卒業生の皆様へ : 子供の教育
[特別版] ☆ 2017年7月 : 「試験の成績と本当の実力」
一般的に言って、親が子供を育てるうえでの最大の目標は「その子供が自分で考えて、自分のしっかりした意思を持つような人間に育つこと」だと思います。しかしながら実際問題として、親となると自分の子供が有名高校・大学に進学して欲しいと願うのは自然なことでもあります。現在の日本の状況を見る限り、有名大学を卒業したほうが、より良い就職先が見つかる可能性が高いし、より高い地位につく可能性が高いことも事実だと思われます。
しかしながら、その子供が本当の意味で実力をつけたかどうかという問いかけには、残念ながら現実はさらに厳しい答えしか返って来ません。すなわち、試験によくできるような教育をして首尾よく有名大学に入学そして卒業した場合、一般的に言って、その子供の実力が予想を超えて低いのが現実なのです。それはある意味で当然で、試験によくできる子と言うのは、知識優先で物事を覚えている場合が大半であるからです。その知識の源をしっかり考えてゆくと試験でよい成績を取ることはできない場合が多いのが現状です。さらに言えば、現在の教授陣の大半が知識優先で育った人たちであるため、そもそもその知識の源を教える事はできていない場合が現実の有名大学では頻繁に起こっています。
それでは自分の子供が試験によくできて、しかも本当の実力を備えている人間に育つ教育は可能なのでしょうか?この質問を確かにしばしば受けてはいますが、それに対する答えは唯一つです。すなわち、自分の子供が実力をつけて、さらに試験によくできるようになるためには、例えば数学で言ったら「計算練習を他人の3倍は行う」と言うことだし、英語で言ったら「暇があったら辞書を読んでいる」ということを実行することです。それ以外には良い方法は見つかりません。問題はその子供が自主的にそれだけの努力を行いながら、その知識の源に関してもしっかり考えてゆけるかどうかと言うことになります。
現在、有名大学のある分野の教授陣(40歳代、50歳代)を見る限り、そのレベルは救い難いほどに低いものになっています。大学が有名であるかどうかは単に歴史的なもので、その学生のレベルやその教授陣のレベルとは無関係です。教授陣が低レベルの場合、その学生・院生が高いレベルに育って行けるかどうか、その辺は私にはわかりません。ただ、自分の言葉でしっかり考える若手はある意味で自然に育つ可能性もあり、今後暫くは優れた資質をもつ学生が教授陣と無関係に成長してくれることを祈るしかありません。実際、私の回りにはその指導教授のレベルとは相関関係がない形で、自分でしっかり考えている若手が数名いることは確かです。
大学の教授陣のレベルダウンは別にして、しかしもっと具体的な事で早急に改革するするべき重大問題があります。それは、これまでに間違った論文を書いて、そしてそれで職をとったり、有名になってしまったりした教授達がそのまま何もしないで悠然とその職に留まっていると言う現実が多々あることです。科学の研究において、間違った計算をしたり、実験における一部過程で間違えてしまうと言うことは当然、起こりうる事象です。しかし自分の計算や実験の誤りに気がついた場合、それを公にして論文を取り下げることが科学者として非常に重要な責務です。例えば「ペンタクォークの発見」が10数年前に大きな話題になり、その理論解析も含めてかなり多くの論文(恐らく100編以上)が発表されたものです。ところが、この実験データは他の実験グループによる検証では発見できなかったことが確認されました。さらに、この再検証した実験グループは最初に発見したという実験解析のあるプログラムソフトにバグを見つけて、それを修正するとどの実験でもピークは見つからないことが示されました。ところがこの後、最初に発見したという実験グループは論文を取り下げるわけでもなく、何もしないで現在まで来ています。理論解析も含めて、ペンタクォーク関係の論文は基本的には取り下げるべきです。それをしない限り、この分野(ハドロン物理)は信頼を取り戻すことはできません。当時、「この間違った論文を書いて職を取った人たちが権力を持ってしまったらどうなることか」と危惧したものですが、現在、それが現実になりつつあります。この分野において、彼ら自身による自浄作業ができない場合には他の誰か(物理学会)が行う必要があります。実際、この分野のみならず、他の分野にも重大な影響を及ばし始めていますし、すでにその被害を直接的に受けている若手研究者が出はじめています。1例としてペンタクォークの問題を挙げましたが、これは氷山の一角です。一体、科学者の良心とその道義的責任はどうなってしまったのでしょうか?
[fffujita@phys.cst.nihon-u.ac.jp]
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