卒業生の皆様へ : 坂本怜選手の技術力 (2024年12月)
11月末、日本で行われたATPチャレンジャーの大会で坂本怜選手が優勝しました。彼は身長が高く、また身体能力も優れているので、確かに期待の若手だと思いますね。しかし試合を見る限りではまだ『コート内の動き』が良いとは言えない面がありますので、試合巧者になれるよう『コート内テニス』の戦術勉強も続けて、コートセンスを磨いて欲しいものです。それにはまずはショートテニス(ドロップショットを含めて)のコントロールを半径30 cm 程度に持って行く事でしょうか?
サーブはすでにかなり良いレベルだと思いますが、しかし割合、サーブコースが読まれ易いフォームですね。恐らくは手首と体のバネの使い方がまだ発展途上のレベルである事が原因かと思っています。坂本選手が理想にするべきサーブは現在世界 No.1 の選手であるシナーのサーブであろうと考えられます。そして坂本選手ならば彼のサーブフォームから見て、割合早くにそれを習得できてしまうのではないかと思われます。勿論、習得した後はさらに自分に合ったサーブを工夫して行く事になると考えています。
フォアハンドのフォームは非常に良いと思います。しっかり打つ時はもう少し腰を落として打つ必要があろうかと思いますが、しかし全体としては安定したフォアハンドになっています。今後は、もう一段、打つ瞬間の溜を作って打つ方法を習得すれば、相手にコースを読まれる確率が低くなり、トップレベルに負けないフォアハンドになるものと期待しています。
バックハンドでスライスを混ぜているのは非常に良い事ですね。しかし彼のスライスはまだまだかなり発展途上のレベルですね。きちんと打つ場合のスライスはラケットを肩に担ぐくらいに引いて、ラケット面と右腕が一体となってボールを叩く感覚を習得する事が大切で、さらにラケットの握りはコンチネンタルよりも薄くした方が良いかと思われます。この場合、Closed Stance で打つ事が大切です。スライスを Open Stance で打つと、ラケットの先が下がってしまう事が良く起こり、これだと力があまり伝わらないスライスとなりますので注意する必要があります。
ダブルハンドに関してはまだバラつきがありますが、しかしかなり良いボールを打ててもいます。従って、これから左手の使い方をうまくマスターできれば、順クロスのボールがさらに良くなるものと期待できます。これも含めて基礎練習をしっかりと積み重ねて行く事が大切であろうと思います。
どの分野においても、学ぶと言う事は『まねをして技術を習得する事』です。この場合、まねをする元のモデルが優れている事が非常に大切です。例えば、シナーのサーブは非常に良いサーブである事が良く分かりますが、これは結果がはっきりと出ているからですね。そしてこれがテニスの場合の利点です。しかし例えば、理論物理においては『一般相対論』にしても1960年代に提案された理論模型(『自発的対称性の破れ』など)にしても、自然界に応用される事なしに評価されてしまったモデルです。このため、それを学んだ多くの物理屋はその後、悲惨な状況になってしまいました。その意味において、まねをする時にどのモデルを元にするかと言う事は非常に重要ですね。テニスは結果が割合、はっきり出るものなのでモデルの良し悪しの特定はそれ程、困難ではないかと思います。しかしながら、例えばナダルのフォアハンドのまねをしようとしても、これは普通の選手にはなかなかうまくはできないであろうと思われます。
☆☆ サーブトスの力学 ☆☆
ここではトスを高く上げて、その落ちてきたボールを打ってサーブする場合、どのくらいサーブの落下地点(今の場合、ネット上を通過する位置)に影響が出て来るかと言う力学を簡単に計算して見ました。ここではトスの最高地点から約50 cm 落下したボールを叩く場合を検証します。真空中だと50 cm 落下したボールの下向きの速度は約 3.1 m/s です。しかし空気の抵抗がテニスボールにはかなりあるため、この速度は真空中の場合の3分の1とします。すなわち、ボールを打つ時の下向きの速度は V= 1 m/s とします。ここでサーブを打つ場合の初速度は 100 km/h だとしましょう。これは約 28 m/s に対応します。この場合、下向きにずれるわけですが、そのずれ方は角度で表すことができ、これは今の場合、約 0.036 rad となります。この時、ベースラインからネットまで約 12 m なので、下向きの速度の影響としては、そのボールの軌道は最高地点を叩いた場合と比べて、ネット上で約 43 cm 程度下方になっている事がわかります。
実際のサーブの軌道に関しては、空気抵抗と重力の影響が無視できないものです。さらにスピンの影響が非常に大きいため、ここで行った評価(計算)は大雑把には参考にする事ができると言う程度です。正確な数値を求めるためには膨大な計算が必要であり、ここでは行っていません。しかしかなり大きな影響である事は間違いない事ですね。このため高くボールを上げて、その落下したボールを打つ選手はどうしても微調整をせざるを得ない事になっています。従って、この場合サーブコントロールに難が出てしまいます。当然ですが、サーブで最も重要な事はそのコントロールの精度ですね。
ちなみに、落下したボールの速度がサーブの速度に加わるため、少しサーブの速度が増すのではないかと考える選手がいるかも知れませんね。しかし残念ながらこの場合、速度の増加は在りません。具体的には、サーブの速度が 28 m/s で落下速度が 1 m/s の場合、加算された速度が 28.02 m/s になるだけのことで、これはサーブ速度は変わらないと言う事に対応しています。
[fffujita@gmail.com]
-
-
-
ヒイラギと思い込み ヒイラギ
近況報告 報告
退職記念会 お礼