重力場とg-2 : g-2に対する重力効果 (2024年5月)
電子の異常磁気能率 g-2 に対して、重力場の影響が存在している事が坂本氏と松田氏によって、理論的に明らかにされました。この論文は『 Jxiv 』で発表されていますので参考にして頂ければと思います。
電子の g-2 の研究はこれまで理論物理の発展に大きな貢献をしてきました。これは電子の g-2 が量子力学の根幹に関係しているからですね。電子が持っている固有の性質の一つがスピンであり、これが直接関与しているのが異常磁気能率です。g が2であることはスピンが 1/2 である事と関係しています。しかしながら電子の磁気能率における g は2から少しずれている事が実験的に観測されています。そしてこれは量子電磁力学(QED)におけるバーテックス補正による効果として理解されています。何故、磁気能率ではなく g-2 なのかと言う問題ですが、これは単純な事です。すなわち、QED の効果を議論する場合、g-2 と言う物理量が無次元量であるため、電子もミューオンも同じ値となる事が QED の範囲では厳密に示されているからですね。実際、無次元量は理論的な取り扱いが比較的、易しい物理量であると言う事は確かな事です。
しかも測定は極めて高い精度で行われています。これは現代の実験技術の進歩を明確に示してきました。しかしながら、自分に取っては g-2 が12桁かそれ以上の精度で測られていると言う事自体が凄い事だと思う反面、不思議な感じはしますね。そして、やはり基準になっているのは Cs 原子の振動数なのでしょうか。
さらに最近、ミューオンの g-2 までも9桁近くまで測定されていて、この値が電子の g-2 から少しずれている事が報告されています。 ミューオンの g-2 を参照。
そして前述したように、電子の g-2 に対して地球の重力場の影響が存在している事が理論的に証明されています。この効果は非常に小さいもの(10^{-9}の大きさ)ですが、しかし現代の実験技術からしたら測定可能であると考えられます。特に、この測定は大型加速器を使った実験ではないため、物理センスが良くて職人的な実験家であれば誰でも測定が可能であると言う物理量となっています。これまで自分は半世紀以上に渡り、物理の理論的な研究に専念してきましたが、その間、物理センスが非常に優れている何名かの職人的な実験家との出会い、そして彼等との議論は常に楽しいものでした。彼らはいずれもすでに引退されておられるものと思いますが、しかし若手の中にもそうした優れた職人が必ず、おられるものと確信しています。今の場合、電子の g-2 においてはコンパクトな実験設備を作成する必要があります。それはこの実験が衛星で行われる必要があるからですね。このためには極めて高いレベルの一様磁場の作成が必要となるものと思っていますが、どうでしょうか?いずれにしても、こうした実験を実行する若手が現れる事を期待しているものです。
[付記] : 何故、一般相対論は無意味か? [2023年12月]
現在、一般相対論が何故,物理的には無意味な理論であるかと言う事が厳密に証明されています。これは Einstein 方程式は数学的に間違っていると言うわけではありませんが、しかし物理的には無意味な方程式であると言う事の証明です。小ノート 『 何故、一般相対論は無意味か? 』を参考にしていただければと思います。
結局、これまで現代物理学の最も重要な命題は『新しい重力理論が場の理論的に作ることができるか?』と言う事に集約されていました。これがあれば、もともと一般相対論は不要でした。新しい重力理論に関しては [教科書 Fundamental Problems in Quantum Field Theory (Bentham Publishers, 2013) ] を参考にして頂ければと思います。
一般相対論のような物理的に意味をなさない理論に多くの人々が振り回されてきた事実は取り返しがつかない程、重いものですね。しかしこれからは前を向いて行くしかありません。この場合、物理を学ぶ時に、実は哲学を学ぶ事も重要であると考えています。特に、研究において、どのような方向に進んで行くべきかと言う事を模索している時に、哲学的な思考法は重要な指標を与えてくれることがしばしばある事は間違いない事です。詳しい事はここでは触れませんが、最近出版された 『恣意性の哲学』(四方一偈著、扶桑社新書476) が少し参考になるかも知れません。この本は物理とは直接の関係はありませんが、私の最も親しい人が書いた本なのでここに挙げておきます。若手研究者は時間を見つけて是非、読んで頂きたいと思います。
[記:この哲学書の著者 (兄・圭一) は令和6年4月初めに他界]
[付記 S]:積み重なる努力 [2024年1月]
現代においても、才能ある若者がその才能をあまり発揮できていない場合がよく見られています。これは才能はあっても、実際には環境とか運とかタイミングがかみ合わなかったりして、その才能をうまく開花できていないと言うことですね。それではこの場合、その才能を発揮してさらに伸ばして行くためにどうしたらよいのでしょうか?恐らく最も重要な点は、他の人よりもより多くの『積み重なる努力』を続ける事であろうと考えられます。
それでは、その『積み重なる努力』とはどのようなものなのかが問題となりますね。物理学において、自分の実力をつけるために、物理の教科書(例えば電磁気学)を何回も読んでそれをほとんど覚えてしまうような、そう言う努力をしたとしましょう。ところが、この努力は大学において試験の点数を稼ぐには効果があるかも知れませんが、残念ながらこれは積み重なっては行かないものとなっています。教科書を覚える事をしても、これは物理の基礎トレーニングにはなっていないからですね。一方において、例えば電磁気学の演習問題を執拗に解きまくると言う事を実行して行くと、これは物理における積み重なる努力に対応しています。但し、これは途方もなく時間が掛かってしまうし、また非常にタフな作業となっています。従ってこの演習問題を解くと言う基礎トレーニングを効率よく行う必要があります。それは、人が持っている時間(人生)は有限であり、そのハードな作業を一定の時間内にやり遂げる必要があるからですね。従って、この作業を実行して自分の実力をある期間内に向上させる事ができるかどうかが重要なポイントとなっています。そして、これができるかどうかも一つの(別個な)才能と言えるものかも知れませんね。
[付記SS] : 理論物理の基礎トレーニング [2024年7月]
理論物理学の研究においてトップレベルの新しい研究を持続して行うためには『基礎物理学の演習問題を解く』と言う作業が重要となっています。例えば、電磁気学の演習問題を解き直してみるとかゲージ不変性について再検証すると言うような基本的な作業を普段から行っていない限り、高いレベルの研究を続けることは、まず不可能となっています。実際問題として、しばらく前に提案した『 試験問題 』を自分で解けない研究者が新しい研究を遂行できるはずがありません。理論物理学の新しい研究は常に基礎物理学を土台として、その上に成り立っているからですね。
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