若手テニス選手の強化法 (2022年8月) [付記:回転エネルギー]
現在、テニスのトッププロとして世界で活躍している日本の若手選手はそれ程、多くはありません。さらに世界のトップ100を見るとその中に入っている日本人選手はかなり少ないと言えるようです。何故でしょうか?これには当然、様ざまな原因が考えられる事と思われます。
ここでは『教育と金』と言う観点から議論を進めて行きたいと思います。現在、小・中学生でテニスの練習を特別に行おうとしたらテニススクールかテニスクラブに入ってトレーニングするしか他に方法はありません。つまり、学校のクラブとして硬式テニスを行う事は難しいため、どうしてもお金がかかってしまうと言う事です。これは特に公立の中学校ではクラブとしてソフトテニスのクラブが大半であると言う現状に関係していると思われます。昔は軟式テニスで強い人は硬式テニスでも強いものだと言われた時代がありましたが、今はそれは通用しません。それは世界のテニス人口が急激に増えた事と関係していると思われます。テニスの勝ち負けは確かに身体能力に強く依存していますが、現在、世界レベルでは身体能力が高くて、しかも幼少から基礎練習を積んできたテニス選手が急増しているため、身体能力だけでは勝てない時代となっています。
世界に伍して戦えるテニス選手を養成する唯一の方法は、身体能力の高い青少年のテニス人口を増やす事につきます。さらに、トップレベルの選手は『育てるのではなく育つもの』です。これは学問の世界でも同じですね。進学塾に通って、有名高校・大学に入る事はその若者が就職先を探す場合にはプラスになっていると思います。しかし学問の世界でプロとして通用するかどうかは有名大学とは無関係です。例えば、有名大学の学生で世界に通用する学者に育つ割合は他の普通の大学の場合と比べて特に高いと言う事はありません。これは半世紀前から同じで、大学院で研究を始めた時に、その院生が学者のプロとして世界で通用するかどうかの方向が見えてきます。この時に『学問の身体能力』が高いかどうかが徐々にわかってくると言う世界ですね。そしてその後、基礎的なトレーニングをしっかり積み重ねる事ができる若者が伸び続けて世界的なレベルの学者に成長して行くものと考えています。
テニスの場合、総合的にテニス選手として世界で戦える身体能力があるかどうかは高校生の段階で見えてくるものと思われます。そしてその中からテニスの基礎練習をしっかりこなし続ける事が出来る若者が世界で戦えるテニスプレーヤーとなって行くものと考えています。
[付記] 回転エネルギーの大きさ:
ここで通常のストロークの場合、強いスピンを掛けた時、それが並進運動のエネルギーと比べてどのくらいの大きさになっているかを簡単に評価して見ました。参考にして頂ければと思います。
半径 R のテニスボールを考えてその質量を M とします。この場合、質量は表面にだけ分布していると仮定しているので、その回転エネルギー Tr は Tr=(1/3) MR^2 ω^2 となります。一方、並進運動のエネルギー Tt は Tt=(1/2)Mv^2 です。ここで大雑把に具体的な数値を見てみましょう。例えばナダルの場合はおよそ v= 100 km/h =2780 cm/s 程度である事が知られています。一方、ナダルのボールの回転数は1秒間に約 80 回なので (Tr/Tt) = 0.25 と求まります。すなわち、ナダルが打っているストロークでは回転エネルギーが並進運動のエネルギーの25%もある事がわかります、しかし、回転運動のエネルギーは見た目に分からないので、相手がしっかりと自分の回転を掛けない限り,跳ねられてしまいます。一方、普通の選手の場合、この比は約15%程度であることが分かります。
この計算では並進運動のエネルギーをかなり大きく取っています。スピードを押さえて、しかし回転数だけを増やすとこの比はもっと大きくなることは式を見れば明らかですね。これらの考察からテニスにおけるスピンは『騙しのテクニック』としてかなり有効であることが分かると思います。
( fffujita@gmail.com )
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