卒業生の皆様へ : 若手テニス選手の技術力 (2024年10月)
先週行われた全日本テニス選手権において、女子シングルス決勝に残ったのは2人とも10代の若手選手でした。決勝では石井さやか選手が勝って優勝しましたが、準優勝の齋藤咲良選手との差はほとんどないと感じました。2人とも、確かに将来性豊かだと思いますが、うまく成長して世界で活躍して欲しいものですね。
石井さやか選手はパワフルなストロークと速いサーブが武器ですが、まだテニスはかなり荒っぽいものですね。才能からしたら、将来、トップテンに入る可能性がある選手ですが、フォアハンドの正確性がまだまだなので、これを改善する必要があると思います。そしてこれにはかなり時間が掛かるものと思われますが、しっかり練習し、またテニスの理論をきちんと学んでフォアのストロークのコントロールを向上させて欲しいものですね [ テニスの上達法] 参照。
それからサーブをさらに改善しないと、世界のトップで活躍する事は難しいかも知れません。これは大坂選手以外のほとんどの日本人選手に共通して言える事であろうと思われます。そしてそのためにまず最初にできる事としては、もう少しトスを低くしてクイック気味に打つ方法を学び、自分のものにすると言う事だと思います。
日本のジュニアの大半はサーブのトスを非常に高く上げて打ちますが、一体誰がこのような事を教えているのでしょうか?以前に解説していますが、高いトスでそのボールが落ちてきたところを打つと、どうしても下向きの速度ベクトルが影響してしまいます。このため、普通に打つとネットに掛かる可能性があるため、少し遠目に打つように調整する事になります。しかし、どのくらい遠くに打てば良いのかと言う感覚が難しくて、これではコントロールがなかなか定まりませんね。いずれにしても、理想的にはトスを上げた時の最高地点で打つことです。この場合、ボールは一瞬、止まった感じになるので打ち易さもあると思います。また、下向きの速度はゼロなので、自分のフォームで打つことができます。従って、自分がボールを叩く場所がボールの最高地点になるようにトスを上げる練習を繰り返し徹底して行う必要があります。昔、大坂選手もトスがかなり下手だったことがありましたが、トスの練習は極めて重要であると思われます。
齋藤咲良選手はその年齢の割にはボールの処理が非常に上手ですね。守備力が優れていると言う事は試合に強い事を意味していて、将来性は豊かですね。タイプとしては昔の伊達公子選手のようなプレーを目指して行けば自分の方向が見いだされるのではないかと思われます。
ところで、伊達選手はパワーテニスではなく、コンパクトテニスとでも言うようなテニススタイルでした。この場合、相手に時間をなるべく与えないで、これにより自分優位のラリーに持って行くと言う方法でした。これはライジングでボールをコンパクトに叩く事により返球時間を短くして、相手が十分ではない状態に持って行き、そこでストロークを打たせると言うものです。これは当時は全く新しい方法でした。その意味では伊達選手は新しいテニス技術の創始者でもあり、これは天才的な手法だと思っています。
齋藤咲良選手の場合、相手が十分の状態にできなくする何らかの方法を考えて行けば、いずれ世界のトップで戦えるものと思っています。一般的に言って、試合に勝つためには相手が良いショットを打った時に、そのショットを逆襲につなげる事ができるかどうかと言う問題が主なポイントとなっています。逆に言えば、自分だけのプレーで強いショットを打ち、それで自分のポイントにすることは非常に難しいと言う事を意味しています。このため、どのレベルでも凡ミスが少ない選手が勝ちあがる事になります。しかし同じ程度の凡ミスの選手同士では、どうしてもそれにプラスアルファが必要です。その内の一つとして、相手が良いショットを打った時に如何に逆襲できるかと言う事であり、実際これが大きなポイントとなっています。
しかし齋藤咲良選手にはまだ基本的なところで問題があります。それはサーブ力です。今後、世界に通用するサーブをどのようにして自分のものにする事ができるかが重要です。彼女の場合、やはりサーブコントロールの精度を一段と高いレベルにする必要があると思われます。これができれば、あるいは早い段階で世界に通用する選手になるものと思われます。
☆☆ サーブトスの力学 ☆☆
ここではトスを高く上げて、その落ちてきたボールを打ってサーブする場合、どのくらいサーブの落下地点(今の場合、ネット上を通過する位置)に影響が出て来るかと言う力学を簡単に計算して見ました。ここではトスの最高地点から約50 cm 落下したボールを叩く場合を検証します。真空中だと50 cm 落下したボールの下向きの速度は約 3.1 m/s です。しかし空気の抵抗がテニスボールにはかなりあるため、この速度は真空中の場合の3分の1とします。すなわち、ボールを打つ時の下向きの速度は V= 1 m/s とします。ここでサーブを打つ場合の初速度は 100 km/h だとしましょう。これは約 28 m/s に対応します。この場合、下向きにずれるわけですが、そのずれ方は角度で表すことができ、これは今の場合、約 0.036 rad となります。この時、ベースラインからネットまで約 12 m なので、下向きの速度の影響としては、そのボールの軌道は最高地点を叩いた場合と比べて、ネット上で約 43 cm 程度下方になっている事がわかります。
実際のサーブの軌道に関しては、空気抵抗と重力の影響が無視できないものです。さらにスピンの影響が非常に大きいため、ここで行った評価(計算)は大雑把には参考にする事ができると言う程度です。正確な数値を求めるためには膨大な計算が必要であり、ここでは行っていません。しかしかなり大きな影響である事は間違いない事ですね。このため高くボールを上げて、その落下したボールを打つ選手はどうしても微調整をせざるを得ない事になっています。従って、この場合サーブコントロールに難が出てしまいます。当然ですが、サーブで最も重要な事はそのコントロールの精度ですね。
ちなみに、落下したボールの速度がサーブの速度に加わるため、少しサーブの速度が増すのではないかと考える選手がいるかも知れませんね。しかし残念ながらこの場合、速度の増加は在りません。具体的には、サーブの速度が 28 m/s で落下速度が 1 m/s の場合、加算された速度が 28.02 m/s になるだけのことで、これはサーブ速度は変わらないと言う事に対応しています。
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