卒業生の皆様へ : 豆知識 : ワインのお話 (2024年6月)
夏が近くなるとワインはどうしても白ワインを飲むことになります。赤ワインの場合、冷やして飲むと、濃厚でしかしまろやかな赤ワインの味が消えてしまうような感じになるからですね。その真逆の例として、夏、常温のビールを飲むと今一、ビールの味がさえないと感じるのに対して、冷やして飲むとその冷たさがビールの味を引き立ててより美味しく感じるものと思われます。
先日、いつもお酒(ワイン)を買いに行く『カクヤス酒店』で白ワインを買いました。この店でお酒を買う一番の理由は近くにあるからと言う事ですが、それに加えて、お酒を配達してくれるし、さらにそこで働いている店員さんがとても感じが良い若者達である事もかなり重要なポイントですね。
その日、そこの店員さんが『ワインは難しくて困ります』と愚痴をこぼしていました。それで昔、ドイツにおけるワインの評価の仕方について簡単にお話ししました。それはドイツのワイン醸造所の造り手から聞いた白ワインについての解説話で、これは勿論『受売り』です。
30数年前になりますが、ある日 Deutsche Weinstrasse にある『Maikamer』と言う小さな村を訪れたことがありました。ここには何件かのワイン醸造所 (Wine Keller) があるのですが、その日はその内の一つに入って行きました。最初、庭に入って行っても誰も応対してはくれませんでした。それで、適当に探し回って、その辺で働いている人に話しかけましたが、そこは二人の兄弟が経営しているワインの醸造所でした。そこでお兄さんの方が Wine Keller の中を案内してくれました。中は意外と広くて、大きな樽がいくつも置いてありました。
それからその後、ワインの試飲をさせてくれました。その時、彼らが作っているワイン(ブドウ)の種類は Riesling であると説明されました。ドイツの主なワインが Riesling であることは有名ですね。それで試飲としてまずは Qualität Wine から始まりました。この Qualität Wine は最も普通に飲むワインですね。この場合、ワインを作る時に醸造用アルコールを混ぜても良いと言う事でした。このワインが比較的安くて、しかも結構、美味しいものである事は確かな事でした。次に飲ませてくれたのは Kabinett Wine でした。ここからは醸造用アルコールを使う事は出来なく、すべてワイン(ブドウ)のお酒から造られることになります。確かに、この方が少しだけ Qualität Wine よりも美味しいと感じました。さらに進んで、次は Spätlese Wine でした。これはドイツにおいては比較的高いワインとして知られていますが、特に当時は Spätlese Trocken のワインは人気が高いものでした。確かに、これは非常に美味しいワインでしたね。
ところで Trocken のワインとは辛口のワインの事ですが、この時にワインの造り手(兄の方)が辛口と甘口のワインの造り方について解説してくれました。彼の説明だと Trocken のワインにするためには Fermentation(発酵) を止める時期を遅らせる事によるそうです。確かに、直感的にはわかり易いですね。ブドウは収穫時には当然、強い甘みがあります。それで発酵を続ける事によりその甘さは少しずつアルコールへと変換されて行きます。従って、Fermentation を続ければより辛口になると言う事のようです。これは大雑把には成り立っている理論的な解釈であろうと思っています。
しかしながら、ブドウが持っている本来の性質にもかなり依っているとも考えています。例えば、シャルドネ(Chardonnay) 種の場合、ほとんどが辛口のワインとして流通しているようですが、これはそのブドウの品種の性質にもかなり依っているものと思われます。一方、ドイツワインの主力とも言える Riesling 種の場合、甘口が多くて、昔 Riesling の Spätlese Trocken のワインを見つけることがそう簡単ではない事がよくありました。これはやはり、このブドウの本来の甘さにもある程度、依っているものと考えられます。さらに言えば、ブドウが甘みを多く含んでいる場合、発酵が逆に急速に進んでしまう場合も考えられます。この場合は、アルコール度の高いワインが自然に生産されると言う可能性もあるものと思われます。尤も、この場合、ワインの酵母菌の性質にもかなり強く依存するのではないかと考えられますが、この辺は専門家ではないので良く分かりません。いずれにしても、これは方程式を解いて同じ答えが求まると言う世界ではないと言えそうです。
その試飲会では Spätlese Trocken のワインまでは自分としても味が次第に良くなっていると言う事がよくわかりました。ところが、最後に試飲として出された Auslese Trocken のワインとその前の Spätlese Trocken のワインとの違いがわかりませんでした。それで『この二つのワインの違いは分かりません』と正直に答えました。そして、この時の造り手の説明には非常に驚き、決して忘れられないものとなっています。それは『この二つのワインの違いは香りだけである』と言われたのです。しかし価格は当時、 Spätlese Trocken のワインが20マルクするとしたら、 Auslese Trocken のワインは40マルクであると言う事でした。これにはさすがに吃驚しましたね。そして勿論、自分には Auslese Trocken のワインを買う気が起こらず、結局、その後そこで Spätlese Trocken ワインを1ダース購入したものでした。
最近、自分が最も美味しいと思って飲んでいる白ワインは New Zealand で作られているものです。特に昨年、手に入ったワインは味も非常に良く、また特別に香りの良いワインでしたね。今年はまだその銘柄のワインは手にしていませんが・・・。ドイツの Riesling ワインで Spätlese Trocken を手に入れる事は日本ではそう簡単ではないようですね。どうもドイツ人のワイン生産者または輸出業者の間には『日本人は甘いワインが好きのようだ』と言う偏見が確かにあるようです。
秋からは赤ワインを主に飲むことになります。基本的には、赤ワインの方が多様性があるように思われます。その分、赤ワインの良し悪しを評価することは難しいとも言えますね。しかし最も重要な事は、当然ですが、まずは飲み手が美味しいと思うことですね。
しかし実際問題としては赤ワインの評価は昔の Medoc 地方において19世紀の半ばに行った格付けが現在でも大きな影響(評価の基準)を与えているものと思われます。これは Medoc 地方におけるそれぞれのワイン生産を第1級から第5級までに格付けして、ワインの評価を不動のものとしてしまった事です。その第1級のワインが Chateau Margaux, Chateau Mouton-Rothschild, Chateau Lafite Rothschild, Chateau Latour、Chateau Haut Brion で生産されるワインですね。
確かに、それらのワインにはめったに外れがなく、比較的質の高いワインが楽しめる事は確かであろうと思います。つまりは、安全に美味しい赤ワインが飲めると言う事ですね。但し、それらのワインは明らかに非常に高いものだし、価格的には過大評価されていると感じています。実際問題として、世界の各地における優れたワインを手にする事ができれば、それらは Medoc 格付けワインと質的に匹敵するような美味しいワインである事は間違いないものと思います。しかもそれらは相当数、存在しているものと思われます。しかし問題はどうやってそれらの美味しいワインを探し当てる事ができるかと言う事ですね。勿論、それは自分には全くわかりませんし、あるいは、これはそう簡単ではない事かも知れません。
その意味では、昨年、手にしたアルゼンチンのワインは特別に重口のワインでしたが、非常に美味しいものでした。これは Malbec 種のブドウから造られているワインですが、数時間(多分、それ以上)空気にさらしてから飲むと最高に美味しいものですね。これは恐らく、渋柿が干し柿になった場合の甘さと同じで、重口ワインのタンニンがうまく甘みに変わるとこれは最高の味となるものと考えています。実際、この甘さは砂糖の甘さとは本質的に異なっていて、その美味しさは他のものではなかなか得られないものと自分は思っています。
四半世紀ほど前、それは丁度、チリワインが出始めた頃のお話ですが、ある時、普通のスーパーマーケットでチリの白ワインが3本千円で売られていました。それで、すぐさま1ダースほど、購入しました。その当時、白は主に Chablis のワインを飲んでいましたが、しかしながらこのチリの白ワインが Chablis の白ワインに全く引けを取っていない事にひどく驚いたものです。それである日、研究室でこの2つの白ワインの飲み比べをしてみました。この当時、院生の一人(平本君)はかなりワインにうるさくなっていましたが、しかしこのチリの白ワインの美味しさに仰天していました。しかしながら、この白ワインを手にする事が出来たのはごくごくわずかの期間でした。これは、そのチリワインの生産者が日本には輸出しなくなったからなのか、あるいは別の理由からなのかはわかりません。しかしその後、少なくともその白ワインを見かけると言う事はありませんでした。これは非常に残念な事でしたが、これも今は昔の話ですね。
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