☆ 日本の科学研究の凋落 : 低落を食い止められるか? (21年9月) (付記3 :2022年4月)
☆ 日本の科学研究のレベル
近年、日本の科学の研究レベルはどうにもならない程、急速に低下し続けています。これが若手研究者の大幅な減少と関係している事は良く知られている事実です。そしてこの主な原因が20年ほど前に実行されてしまった「聖域なき構造改革」にある事も周知の事実です。これは『大学も病院も一定の基本的な予算以外は、各自が「外部資金」を獲得する事により研究費などに充てる事』と言う提言です。この改革は学問・教育を潰そうと目論んでいるとしか言いようがないものです。その上、大学の『基本的な予算』も年々1%ずつ削減されてきました。この事は二流半の学者とポピュリズム的(大衆迎合型)政治家が国の指導者になると、時にとんでもない愚行が制度化されてしまう危険性があると言う事の良い実例です。彼らはいずれ、何らかの形で責任を取るべきであろうと思われます。
この1年、コロナワクチンが自前で作成できない現状に多くの国民は内心、驚いたことと思います。しかしこれはこの分野のみならず、基礎科学に対するサポートは年々減少してきた結果、研究者全体の数もその研究レベルも恐ろしいほどに低落していることに依っています。さらに若手研究者を育成できないどころか、彼ら若手には定職もなく、従って研究を担うべく人材がそもそも少なすぎるものです。この事は前述したように、若手研究者の減少や研究費削減が主な原因です。しかしそれに加えて、一部の『有名な』しかし実際は有能とはかけ離れた研究者(集団)が科研費などの外部資金を獲得して、多くの若者をポスドクとして研究に利用してきたことと無関係ではありません。非常勤の若者を研究や雑用にこき使う事はそのグループがブラックであると言う事です。一人の研究者が共同研究者として面倒見る事ができる若手のポスドクはせいぜい一人です。これには例外はありません。従って例えば、数人のポスドクを雇ってきた研究者はその分、若手をつぶしてきた事に対応しています。
深刻な問題は、これらの既得権者はこの現在の状況に十分、満足していると言う事実です。そして、さらに悪い事に彼らは国の将来を考える人達ではないため、現在の悲惨な現状を変えて行こうと言う考えを持つことはできません。この既得権者の壁が現状を変える事ができない一つの原因ともなっています。『愛国心を強く持て』とは言いませんが、しかしこの現状は戦前の状況とは対極にあり、この極端な状態は逆に危機的な状況を生み出した一因ともなっています。自分の国を愛する事は当然の事だと思うのですが、現在、それが欠如していて、自己中心的な研究者が多すぎるように思われます。しかし何故、そうなってしまったのでしょうか?
またコロナ患者が海外の場合と比べてそれ程、多くはない段階からすでに病院の逼迫が報道されていました。これは病院なども「聖域なき構造改革」が長い間、実行されてきた事に主な原因があります。しかし病院を正常な状態に戻すためには途方もない時間と努力が必要であろうと思われます。
最も深刻で困難な問題は、一度失った研究レベルを回復するためには非常に長い時間を要すると言う事実です。これは誰にでもすぐにわかる事ですが、物を壊すのは短時間でできますが、それを作るには長い長い時間が掛かると言うことです。
☆ 日本の科学研究の再構築
それでは、日本の大学が若手(研究者)をしっかり育てると言う基本的な作業ができていない現状をどう改善して行けるのでしょうか?戦後の日本においては敗戦の結果、まずは立ち直るために皆が努力をして、特に教育の重要性は国民全体の一致した認識であったと考えられます。従って、教育にお金を注ぐことはある意味で当然の事でした。ところが、現在は状況が全く異なっています。日本の科学研究はレベルが高いと言う妄想が人々の間に蔓延しています。これが『高かった』と言う過去形であることが理解されていません。日本の科学研究のレベルを上げて行くためには、まずは大学を含めた若手研究者のポストを大幅に増やす事から始める事でしょう。しかしながら、これは勿論、時間をかけて、例えば10年計画で行う必要があります。急にポストを増やすとそこに様々な問題が起こる可能性が大きいからです。当然の事ですが『人的資源』の回復には予想をはるかに超えた時間と努力が必要であると言う事ですが、これは本当に気の遠くなるような深刻な問題です。
☆ 基礎科学の重要性
現在、日本の科学技術の進歩に対してはその重要性が割合しっかりと認識されていると思います。それはその技術が比較的直接、社会の役に立つことが多いからだと思われます。しかしながら、科学技術の進歩は基礎科学の進歩があって初めて可能になるものです。一方、科学の基礎的な研究はすぐに役に立つと言うものではない事が比較的多いため、それが科学技術の進展に役立つためには時間が掛かる可能性が大きいものです。しかしながら基礎科学の進歩なしに科学技術が独立に進歩する事はありません。技術の進歩自体も非常に重要であることは明らかですが、どの技術もその基礎がしっかりしていない限り、真に新しい進展はあり得ない事をしっかり認識するべきです。それどころか、日常的な技術の進歩も基礎がしっかりしていない限り、難しいものです。実際には、確かに偶然ショットの技術革新が起こる事もごくたまにはあり得ることですが、しかしこれが長続きする事はありません。さらに言えば、例えば『地球温暖化』の問題でもCO2が温暖化に寄与していない事は基礎科学をきちんと理解していれば簡単に証明できる事です (『CO2温暖化の理論は正しいか?』を参照)。この場合、CO2削減の技術的な進歩があったとしても、その後、その技術をどう活用したら良いのかといずれ問題となるでしょう。
研究者には限らないかも知れませんが、日本の研究者の多くは『お金、お金』と言いすぎているように感じています。お金があれば新しく、そして良い研究ができると思うのは、勿論、幻想です。昔は研究者が『お金、お金』と言ったら馬鹿にされたものですが、今はどうなっているのでしょうか?
この問題と関連してしばらく前に 『若手研究者の減少』の問題を議論しています。これは緊急事案なのですが、しかしこうした状況を改善する事の難しさは途方もないもので、無力感だけが残ってしまいます。
☆ [付記 1] : 人を育て続ける
この所、メガバンクの一つがシステム障害を繰り返して起こしたため、かなり大きな問題になっています。そしてこの主な原因が『人員削減』と関係していると言う事が金融庁から指摘されました。これは現代の日本が抱えている典型的な問題点ですね。『構造改革』とか『合理化』とか言って人員を削減してきましたが、機械にしてもコンピュータにしてもそれを動かしているのは人です。そしてその『人の教育」を継続してしっかり行わない限り、日本の産業はいずれ衰退して行きます。この20年以上に渡り、人を育てると言う最も重要で困難な事案を軽視してきたツケはすでに深刻な状況を生み出している一因になっていると考えられます。
これはこの20年以上に渡り、無能な首相 (野田元首相を除く) が続いた事から端を発して、次々と連鎖的に『人を育て登用する』と言う事が蔑にされてきました。これが現在の危機的状況に至った主な原因であろうと考えられます。昔、『貧乏人は麦を食え』と言って批判された首相がいましたが、しかし彼は日本を強くしたいと言う気概はあったように見受けられます。自分の周りの小集団の利害を優先するような政治家ではなく、日本全体を見渡せる政治家が今ほど、必要とされる時代はありません。近年のように、特定の利害を持った小集団のリーダーが主力政党の党首となって国を治めるのは勿論、論外の事です。これは何とかしないといけないのですが、しかし難し過ぎてその改善方法は全くわかりません。首相を直接選挙で選ぶと言う事も一つの方法かも知れませんが、これが日本に適合するかどうかですね。ただ、東京都と大阪府に関しては直接選挙で選ばれていて、現在の両知事は有能で信頼されているように見受けられます。
しかしながら、世界の国の中には民主的な選挙でも不正を働いて国の元首に居続けるケースが相当数、見られています。この事は例え民主的な政治形態でもその運用によっては政治がめちゃくちゃになると言う事を示していて、その難しさは半端ではありません。これはどうしたら良いのか分からなく、本当に途方に暮れてしまいます。
いずれにしても、日本においてはこれまでの過去を嘆いても先に進めないので、今後、何とか新しい方向を考えて行く必要があります。しかし、残念ながらどうしたら『教育を優先』するシステムを復活する事ができるのかと言う具体的な問題となると全く手に負えません。しかし何とかしない限り、このままで日本が起ち行くはずがありませんね。本当に、どうしたら良いのでしょうか?
☆ [付記 2 : 独り愚痴] 5人の元首相の暴挙 (2022年2月)
先日来、5名の元首相経験者が『これ以上の愚かな行為はあまり見た事がない』と言う暴挙をやらかしましたね。これは国に取っても信用問題となっており、一種の社会的トラブルにさえなっているようです。これは馬鹿げた話なので、ここでは取り上げませんが、小泉元首相と菅元首相(民主党)に関してはこのホームページでも彼らの愚行を問題にしていましたので、彼らに対して簡単な感想(愚痴)だけ述べておきます。
小泉元首相はこれまで長い間、沢山の先人が積み上げてきた大学や研究所の研究体制を事実上、潰してしまった最高責任者の一人ですね。現在、これは上記の小ノートでも議論してありますが、日本の研究レベルの低下はますます深刻になっています。特に、若手研究者がこれまでよりも6割以上は減少してしまったと言う、大学・研究機関にとってはもはやどうにもならない状況に陥っています。昔から、若手が常に研究の主力であるのに・・・ですね。
その後の元首相の言動を見ても、彼は思い込みが強すぎて、ある問題(例えば原子力関連)についてほとんど理解できていなくても、自分の愚かな信念でそれを行動に移すタイプのようですね。これは彼が政治家ではなかったら、ちょっとだけ馬鹿にされるだけで済む事です。しかし政治家になってしまったばかりに当然、その行動に責任が伴います。その意味では、これは彼にとってもまた国民にとっても不幸で悲しい事ですね。
一方、菅元首相は福島の原発事故において水素爆発を防げなかった責任者の一人ですね。特にこの元首相は、ある時期において日本国民の多くが期待した民主党を結果的に潰してしまった張本人の一人でもあります。さらに言えば、彼は民主党のもう一人の元首相(『子供手当』が1千万円とか言う人)と共に、日本の首相の知識と見識がこれ程までに低いのかと言う事を世界に知らしめてしまい、その事でも知名人になりました。尤も、その後の日本の首相の中には、彼らと負けないくらい知識・見識の乏しい首相が長期政権を誇ったくらいですから、これは日本においてその首相の選び方に基本的な問題があると言わざるを得ませんね。
余分な事ですが(この稿自体が余分ですが)、菅元首相は自分と同年代の人で物理学科出身と言う事のようです。しかしこの場合、彼の出身大学において彼はその物理学科をどうやって卒業出来たのか非常に不思議ですね。その当時『トンネル効果による卒業』と言う言葉が流行っていましたが、あるいはそれと関係しているのでしょうか?尤も、これは半世紀以上も昔の話ですが・・・。
☆ [付記 3 : 日本企業の実力 (2022年4月)
最近、日本の円が暴落しています。これは一時的な可能性が高いとしても、日本企業の実力が近年、明らかに低下していると良く指摘されています。どうしてこうなってしまったのでしょうか?この原因の一つにこの10年近く政府と日銀が取ってきた政策にあると言われているようです。確かに、素人から見ても政策が場当たり的であることは誰もが感じる事ですね。例えば、日銀が日本の株を50兆円以上も購入すると言うようなことを平気でやって来たわけですから、これはどうにも後戻りできない状況になっていると思われます。常に、日本企業の実力を上げて行くための手助けをどうしたら合理的にできるのかと言う事が為政者側としては最も重要な事案です。しかしこのところ、彼らには長期的な視点が全く欠けていました。
1970年代の半ばにカナダに半年ほど滞在した事がありました。この時、当地においてガスステーションで働いているカーメカ(自動車整備士)には車に対する技術的な知識と実力はゼロに近いと言われて吃驚したものです。当時、日本においてはガソリンスタンドで働いているカーメカはほとんどが職人的な知識と技術を持っていました。その後、ドイツに渡って3年間生活して見て、このドイツではガソリンスタンドで働いているカーメカの技術は丁度、日本とカナダの中間くらいかむしろ日本に近いものであろうと感じたものです。
現在の日本ではどうでしょうか?車に関してはほとんどがブラックボックスになってしまったため、これまでのような単純な比較は出来ない状況となっています。しかし個々の技術力が重要であることはどの企業においても、今も昔も変わる事はありません。その技術力を高める努力をこの所、怠ってきたとしたら、これは非常に重大な問題となる事は明らかな事ですね。
今後、日本の企業そして日本が起ち行くためには企業における職人の技術力低下をまず止める事が大切です。何とか、しっかりした技術者を養成する事が非常に大切です。当然の事ですが、企業力とは、勿論、人の力とその技術力ですね。しかし人の技術力をつける事は容易な事ではありません。これはすぐに明日できると言うものではありませんので、長期的な視点を持って実行して行く必要があります。
企業の力と直接は関係していませんが、経済学が科学的な学問としてなかなか進展していないと言う事について簡単なコメントをしたいと思います。経済学の一分野として経済物理学(Econophysics)が近年、少しずつ進展を見ています ( PDF を参照)。しかしながら経済学は人為的な要素が大きく影響してくるため、それを科学として体系化する事は非常に難しいものです。しかし近年のように経済がグローバル化している場合、これを何らかの形で統一的に扱う理論体系がどうしても必要であろうと考えられます。今後、若手研究者がこの問題に対して興味を持って、新しい分野を作って行くように立ち向かって行く事を期待する次第です。
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