物理教養講座 : 出版社・マスコミ・科学担当者用 (2019年3月末更新:完)
☆ 「普通の物理学」 : 科学担当者用として講義ノートを書いてきましたが「物理学講義 5 :場の理論」を書くのは中止とし.まずはここで終了とします.この講義ノートにおいては基礎物理学に関する正しい基礎知識を読者に持って頂く事を主眼として書いてきました.そのため,このノートを理解すると言うことには、また別の作業が必要となります.知識の理解のためには「その知識に至る道程」をしっかりたどる必要があります.しかしこれは専門家に要求するべきことで,科学担当者に求める事ではないと考えています.きちんと理解する事を念頭に置いた場合,大雑把に言って,このノートの10倍以上の丁寧な解説が必要となります.このため,この講義ノートが「今は役に立ったとは言えない」という読者が大半であろうとは承知しています.しかし一方で,将来,これをプラスにしてくれる若者が必ず出てくるものと期待はしています.
☆ 「科研費と若手育成」 : 現在,大学がブラック企業になりつつあると一部で囁かれているような時代となっています. これと関連して「日本の科学は深刻な低迷期」で解説していますが,問題は地方大学への予算そのものが異常なレベルで減額されていると言うことが一つあります.しかしそれ以上に,この問題の根源は予算の配分方法にあります.まずは科研費とそれに関連する予算のばら撒きを即座にやめることです.その際,若手中心の科研費は残しておき,後はすべて地方大学を含めた大学・研究所全体に公平に予算を配分して行く事が必要です.ある意味で昔の「講座制」に近い形への原点回帰が必須な状態となっています.それをしないで今の状態のままだと,この国自体が潰れてしまいますね.科学の進歩は「まともな若い研究者を真っ当に育てること」で初めて可能となります.例えば,偶然ショットで新しい発見をして「何とかノーベル賞」を受賞しても,その研究者が若手を育成できなかったら, 彼は研究者としては一流とは言えないものです.現実に,そうした偶然ショット研究者が「研究ブローカー」のようになり、莫大な科研費を獲得してきました.しかしこれは若手が育つ芽を次々と潰して来たことになっています.それは彼らが若手を「研究労働者」として結果的に酷使してきたからです.しかも博士課程では若手はただ働きどころか学費を払っていると言う異常事態です.当然,若手研究者は現状に対して危機感を抱いているのですが,政治家も官僚も古手研究者も全く知らぬ顔をして呑気に構えているように見受けられます.しかし10年先あるいは5年先にでもすでに深刻な事態になるものと思われます.統計によればこの数年間,先進諸国の中では唯一日本だけが大学院への進学率が減少し続けていて,本当に待ったなしの状態となっています.大学がブラック企業のような所が見られるとしたら,これはもはや「世も末」ですが,しかし本当に、どうしたらこの「危機的状況」を変えられるのでしょうか?
☆ 科学担当者諸氏へ : 現在,科学(物理)関連の紙媒体の出版が難しくなっているという話を良く聞きます.特に,良い本を出版しようとしても,それがあまり売れない可能性が高く,ますます中身の濃い科学本の出版に二の足を踏む出版社が多い事は理解できない事ではありません.その分,どうしても悪書を出版する事になりがちですが,しかしそれを続けていると,長期的にみればそれは読者を失う事になっています.このディレンマをどう解決すれば良いかという問題は難しすぎて,自分にはその解決の方向はまだ見えていません.また物理関連の映像を作成しているマスコミ関係の科学担当者にとって,現在,その指針を何処に持ってきたらよいのか分からないため深刻な混乱状態となっています.このため,何処かの有名(大学)教授の意見を参考にした映像作りに走らざるを得ない状況になっていますが,こうした大学教授の大半が物理音痴であるため,混乱に拍車を掛けた状態が続いています.この数年,物理関連の報道は素人さえも首を傾げたくなるレベルが続き,これはどうにもしようがない状態となっています.実際,しばらく前にはニュートリノが光速よりも速いという特集を組む羽目になってしまったマスメディアもありましたし,宇宙論ではほとんどSFまがいの内容のCGの映像が依然として出回っています.
現在,この様な状況を何とか改善して行く必要に迫られています.それでここでは,科学関連の出版社やマスコミ関連の科学担当者で地道な努力をしている人達のために,今後の物理関連の方向性について講義形式で簡単な解説をして行こうと思います.そしてまずは各自が物理学における基礎的な考え方をしっかりと会得する必要があります.たとえ40歳代後半になっていても,これから基礎的な考え方と正しい知識を自分のものにして行けば,新たな展開が可能になる事は十分,あり得ます.そうすれば知識だけで言葉を発している「専門家」の意見を鵜呑みにしないで,自分の言葉で物理学上の問題点を判断できるようになるものと思っています.
この講義ノートの読者は物理学科4年次の物理力を持っておられるものと仮定しています.昔はその実力があったけど,今はなくなったと言う人がいるかも知れませんが,それは許される事ではありません.この場合,昔の力を再び付け直すように勉強して頂く事になります.その力さえあれば必ず理解できるようにと最大限の努力をして書いていますので,頑張って理解して,自分のものにして頂きたいと思います.物理学では数学を言語として使用しています.分からない数学(言語)がでてきた場合,誰かに質問する事が一番良い方法です.
この講義の中には宿題が出ています.これを自分で解いてみる事が物理を深く理解する唯一の方法です.必ず実行する事が必要です.
今後,この講義ノートを順次アップして行こうと思っています.第1回が「物理学講義 1 :相対性理論」で,次回以降は「物理学講義 2 :電子の物理学」,「物理学講義 3 :電磁波の物理学」,「物理学講義 4 :重力のお話」,「物理学講義 5 :場の理論」と続いてゆく予定です.
■ [第1弾]
第1章は自然界を記述するための座標系を解説しています.これは歌舞伎で言ったら舞台に対応しています.そして「相対性理論」はその基礎であり,すべての理論体系 (但し,一般相対論を除く) は相対性原理を順守し,Minkowski空間での記述となっています. (2018年10月)
物理学講義 1 : 相対性理論
■ [第2弾]
第2章として「電子の物理学」をアップします.実際の物質の世界を理解するためにはこの理論をしっかり理解する事がどうしても必要です.電子の運動はミクロスケールの場合は量子力学で記述されますが,マクロスケールな量の電子が関与すると様々な電磁現象が起こり,これは電磁気学により理解することが可能です. (2018年12月)
物理学講義 2 : 電子の物理学
今回から宿題を少しだけ増やしました.これをしっかり自分の頭で考えて理解することが大切です.年末・年始に時間を見つけて是非,宿題を解いてみてください.問題を解くことが物理学に関する考え方を深める唯一の方法です.それと自分の考えを仲間同士でぶつけ合うことも非常に重要です.
■ [第3弾]
第3章として「電磁波の物理学」をアップします.これは光に関連する物理学ですが,光をきちんと物理的に理解することは容易な事ではありません.実際,専門家でもこの光の物理を正確に理解している人はそれ程多いとは言えないのが現状です.しかしここでの解説を直観的に理解して,さらに問題を解いてみたら,必ずこの光の問題に親しみを持つことができると考えています. (2019年2月)
物理学講義 3 : 電磁波の物理学
今回も宿題はかなり沢山でています.この宿題を解くことの重要性は実際に解いてみた読者にはよくわかってきたものと思います.しかし同時に,大半はなかなか解けなかったのではないかと思っています.それでもまずは自分でできる限りの努力をする事が大切です.それが物理をしっかり理解するベストな方法であることは確かな事です.
■ [第4弾]
第4章として「重力のお話」をアップします.この講義ノートを書くきっかけになった新聞記事では重力関連でひどくトンチンカンなだけではなく,間違った内容を平気で載せていました.これに対して危機感を持ったことがこれを書くに至った最大の理由でした.重力関連は物理学の素人でも興味を持てる現象が沢山あります.その分,物理をきちんと理解していないととんでもない事になる恐れが大ですね.できる限り平易な言葉で解説したつもりですが,しかしきちんと理解する事は容易な事ではないと思っています. (2019年3月末)
物理学講義 4 : 重力のお話
今回も宿題はかなり沢山でています.簡単には専門家も答えられない宿題も含まれていますが,まずは自分でしっかり考えることが大切です.答えがでなくても全く気にする必要はありません.
■ [第5弾について]
「物理学講義 5 :場の理論」を書くつもりでしたが,これはやめにしました.場の理論は専門書をしっかり読んで,さらに自分で式を検証しない限り,これを理解する事は出来ないからです.それと,場の理論を物理学科の4年生に解説することには無理があり,従ってここでの解説も難しいと言う事になりました.
■ [付記] 釣り日記より :
研究とは別に,今,物理の世界で一番欠けているのは何だろうと考えたところ,これは『マスコミ関連で科学担当をしている人達を教育する事』ではないかと思い始めています.彼らが自分の頭でしっかり考えて,色々な問題を判断してくれれば,今の状況を少しでも変えてゆくきっかけになるかも知れないと思われます.しかしながら,これは学生に教えるよりも遥かに困難な話で,うまく機能する可能性は極めて低いと思ってはいます.どの世界でも『柔軟に謙虚に学べる人は絶滅危惧種』であり,難しさは重々承知をしています.しかし,何とかしないといけないと言うことは事実ですし,実際,深刻な問題がすでに日常的に見られています.例えば日経新聞(9月22日)の「重力って何なの?」と言う記事には,その記事を書いた人(または教えた学者)にあきれるよりも,むしろどうにもならい虚しさを感じています.勿論,物理の音程がひどく狂っている人に相談した事が問題の根本原因ではあります.しかしながら,その音程の確かさを自分である程度わかることが科学担当者としての必要条件でもあります.歌を上手に歌う事はできなくても,その歌の音程が狂っているかどうかの判断が出来る人は素人でもそれほど稀ではないと言うことですね.
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