うるう秒の物理 : 地球の自転と原子時計--どちらがより正確か?
[うるう秒] ☆☆ 2018年1月 : 「うるう秒とは何か?」
うるう秒とは地球の公転周期がニュートン力学で求められた公転周期からほんの少しずれていると言う現象です。うるう秒が発見されたのは、観測上、地球公転周期(近日点から近日点)の精密測定が通常の公転周期から毎年少しずれていると言うことに拠っています。この時間刻みは最初、地球の自転周期と比較して行われましたが、この時間の正確さを保証することが出来たのは原子時計のおかげです。この原子時計は13桁近い精度を持っているため、地球の公転周期を正確に測定することが可能となっています。公転周期に対するうるう秒の大きさは約1億分の1なので、この測定は充分可能であると言うことです。
☆☆ 地球の自転 : 地球の自転は真空中における剛体の自由回転運動となっているため全く抵抗がなく、従ってその周期を刻む時間は非常に正確です。この場合、地球の自転の正確さと原子時計の正確さのどちらが勝っているのか、非常に興味はあります。例えば、Cs原子時計の誤差は、現在のところ周りの物質の影響によるものと考えられています。一方、地球の自転の場合、その周期に影響するものがあるとしたら、どのようなメカニズムがあり得るかと言う問題がはっきり分かっていません。一つだけ可能性があると考えられているのは、地球内部で何らかの理由により物質がほんの少しでも中心に向けて落下した場合です。この場合、落下が起こった瞬間に地球の慣性モーメントがそれに対応して小さくなるため、回転エネルギー保存からそれ以降、自転が少し早くなる可能性はあると思われます。しかし、この変化は起こったとしても極めて微少量であり、さらに突然、起こる現象であるためここで議論している自転周期の正確さとは直接の関係はないと考えられます。
● 珍説 : 地球の自転に潮汐力が影響する? : ところで、 地球の自転に対して、月の潮汐力が効いてその自転周期が少し遅れるという話が、ネット上ではまかり通っているようです。これには驚いたと言うよりもむしろ、悲しくなってしまいますね。確かに、これは力学の基礎を全く理解していない人達が珍妙な理論を主張しているだけの事ですし、また実際、ほんの一部の人達の暴走だとは思っています。しかし長年、力学の講義をしてきた物理屋としては、やはり色々と考え込まざるをえません。この人達に誰がどのように力学の基礎を教えたのかと言う問題です。潮汐力(重力)は保存力です。保存力が仕事をしない事は、大学2年生で力学を勉強した人なら当然、理解していますね。ちなみに、力Fが保存力とは F=−∇U と書ける力 (または ∇×F=0 の力) の事を言います。この場合、仕事 W は W=∫Fdr となりますが、これはA点−B点−A点と積分するとゼロになります。すなわち、保存力は仕事をしないことが分かります。 [(注) 大学1−2年生が読まれる場合の事を考えて、非保存力の解説をしておきます。 (非保存力の解説)].
● 従って、潮汐力が地球内部の質量分布を変更することはできません。さらに珍説では、潮汐力によって質量が少し表面方向に引っ張られるため、慣性モーメントが少し大きくなり、このため回転エネルギー保存から自転が少し遅れるという論法です。しかしこの話はさらにひどくて、これは地球内部の重力に逆らうことになっていて、重力場におけるエネルギー保存を破っています。まさか、物理学科の卒業生がこの様な怪しげなお話を信用することはないと思いますが、しかし年齢を重ねても物理を勉強し続けるという姿勢は常に持ち続けて欲しいものと願っています。講義の時に何回もお話しましたが、物理を深く理解することは非常に難しくて、どんなに勉強してもし過ぎる事はないものです。
☆☆ うるう秒の物理 : うるう秒はニュートン方程式に対する相対論的な量子補正効果です。この理論の解説は教科書 (Symmetry and Its Breaking in Quantum Field Theory) および (Fundamental Problems in Quantum Field Theory) で説明されています。この重力理論に関しては、物理が好きな物理学科の4年生ならば充分、理解できるレベルの理論体系なので参考にして頂ければと思います。ここで大雑把な相対論的な評価を簡単にしてみたいと思います。相対論的な効果は、質点の速度 v と光速 c の比の2乗によって大まかには決まっています。地球の公転速度 v は約 0.0001 c なので (v/c) の2乗は1億分の1となります。一方、うるう秒の効果は約1億分の2です。従って、確かにこのうるう秒の大きさが相対論的な効果であることが納得できると思います。具体的な数値としては、1年は 31556925.13 秒(365.242189 日) ですが、うるう秒の補正はこれに 0.62 秒プラスされています。これは観測で初めて分かったことですが、新しい重力理論の予言値はこの値と確かに一致しています。
☆☆ 一般相対論による補正効果 : これまで人々は一般相対論が重力理論だと考えて、ニュートン方程式に対してその補正効果を評価してきました。ここでは一般相対論が地球の公転周期にどのような影響を与えるかを、これまでの人々による計算手法に従って定性的に評価してみます。ニュートン方程式に対する一般相対論の補正効果は引力的であることが分かっています。この場合、地球の軌道はほんの少し中に引き込まれます。このため、地球公転の楕円軌道の面積は少し小さくなります。従って、地球の公転周期は少し短くなります。これは「逆うるう秒」となって観測値とは完全に矛盾してしまいます。[(注) 学部生が読まれる場合を考えて、もう少し詳しい解説を入れておきます。 (一般相対論による補正効果の解説)].
☆☆ 水星の近日点移動 : 一般相対論の教科書では水星の近日点軸の移動の観測値が一般相対論の予言値と非常によく一致していると宣伝しています。水星の近日点移動は100年間に42″移動したと言う観測結果を引用して、それを一般相対論の効果によって再現できると主張したものです。ところが、この計算には重大な見落としがあり、一般相対論の予言値が観測値を再現することは不可能です。その計算間違いとは、近日点軸の移動計算において水星軌道が変化していることを考慮しなかった点にあります。実際に計算してみると、一般相対論の付加ポテンシャルによる効果は、それが引力であるため軌道面積を狭めます。そしてこの効果が近日点軸の移動には最も大きな寄与を与えていて、楕円軌道の角度依存性よりも遥かに大きな効果であることが分かっています。しかしながら、近日点の問題は実は、それ程単純ではない面もあります。実際、円軌道の場合、近日点は存在しません。さらに、通常のニュートン力学の範囲内ではその解が楕円になり全く問題ないのですが、これに補正項が加わった場合、公転軌道が複雑になり、近日点の意味合いに不確定性が出てきます。その意味でも近日点は物理的な観測量ではない思われますが、この問題は今後の課題としたいと思います。 (一般相対論による水星の近日点移動) ].
☆☆ 「時間とは何か?」 : 結局、時間は基本的には天体運動によって決定されています。その周期から時系列を定義して、その基準をもって色々な事象が測られています。特に、生物は地球の自転周期の影響を非常に強く受けてきたと考えられます。人間はこの場合、まずは地球の自転から1日という時系列を作成して時間を理解しようと努めています。しかしながら、時間は空間と異なりその本質を捉えることは非常に難しく、あるいは不可能な事かも知れません。
英語版 Leap Second : Orbital Period Shifts of Earth Revolution
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